『あなたの知らない脳 ─意識は傍観者である─』という脳科学の本がハヤカワ・ノンフィクション文庫から出版されています。2011年にアメリカで出版されて、脳科学の本としてはベストセラーになっている『INCOGNITO The Secret Lives of the Brain』の翻訳書で、スタンフォード大学准教授で神経科学者のデイヴィッド・イーグルマンという人が書いたものです。
この本がなぜ人気なのかというと、私たちにとてつもない衝撃をもたらしたからです。
その衝撃を一言で言えば「脳は無意識のうちにほとんど全てをこなしていて、私たちには意識できない」ということ。
わかりやすいところでは、私たちは歩くとき、まず左右どちらの足をどれぐらいの歩幅で前に出しながら体重をどの程度前に移動させ、転倒しないように重心をどう調節し、続く足をどのタイミングで前にもってくるか、それには各プロセスでそれぞれどの程度の筋肉の緊張を発生させ、どの程度の秒数をかけるべきか…などといったことは、まったく意識していないわけです。
「ちょっと歩いてみてください」
といわれ、「はい、わかりました」と歩き出すことは、そのプロセスのほとんどを脳が勝手にやってくれます。意識はせいぜい、「かっこよく、美しく歩こう」とか、「最近ひざの調子が悪いから痛くないように歩こう」などと考える程度で、それ以外の最も重要なパートである、歩幅の調整、重心の調整などは、脳による「自動運転」です。
実はこれ、歩くという行為に関わらず、ありとあらゆることについて、脳が勝手にやってくれて、私たちが意識することというのはほとんどないという話です。
この本の帯にある言葉を引用すると…
「あなたの意識は、大西洋を横断する蒸気船に乗っている小さな密航者のようなものだ。足もとの巨大な機会の働きを認めず、自分の力で旅をしたのだと言っている。」
というのはつまり、脳という蒸気船があって、私たちはその蒸気船の働きをまったく意識することなく生きているということで、それにも関わらず私たちは、自分の意識によって生きていると信じこんでしまっているということです。
本書のたとえを借りれば、意識が必要とするのは「結論」だけであって、そのプロセスなどどうでもいいから無意識がすべてやってくれているということです。
私たちが「よく考えて結論を出しました」と思っていることであっても、実は無意識のうちで最初から結論は決まっていて、その結論が決まるまでのプロセスというのがどうであったか、私たちは意識することができないんです。
だから「あの人はなんか嫌だな。あまり付き合いたくないな」と思う人がいる一方で、「あの人はいい人だ。これからもずっと友だちづきあいしてもらいたいものだ」と思う人もいます。
人に対する評価がそのように分かれるのはなぜかといえば、それは理屈ではなく、意識にのぼることもない感覚的なものであって、その「感覚」というものがどういうものであるかという説明をすることがたとえできたとしても、その説明はあくまでも「後づけ」であって、実際のプロセスは自分ではわかっていないということ、それが事実です。
アンガーマネジメントステップアップ講座「思考編」では、脳科学のそういった事実を重要視しています。
私たちは「嫌いな人は嫌い」と思っていて、それを自分の意識によって変えていこうとすることは容易ではないことです。その人を嫌う理由というのは意識できないところに仕舞いこまれてしまっていますから、意識を変えるなんて言葉では簡単に言えても、実際には大変に困難なことなんです。
脳にはさらに手に負えないことがいろいろとあって、その代表といっても良さそうなのが「前頭前野」の機能です。
前頭前野は、社会性を調整するために働いています。ここが正常に機能してくれないと、人と協調することができなくなります。
実際にあった例として、前頭前野に腫瘍ができた人、前頭前野に大きな損傷を受けた人というのは、人格が変わってしまい、それまで愛していた家族を惨殺するという事件も起きているそうです。
どうしてそんなひどいことをしたか、本人にはわからないことで、医学的に検証してみた結果、原因は前頭前野だったということですから、私たちの無意識の恐ろしさというのは途方もないものです。
前頭前野は二十歳過ぎまでの間に発育していくそうですが、それが正常になるかどうかは、遺伝的な要素と、育てられた親との関係によって決まるそうです。
社会性が十分に保てるかどうかというのは、個人によって微妙な差のあることで、それが十分でない人ほど、自分の怒りやイライラに苦しむことになります。
アンガーマネジメントステップアップ講座「思考編」は、このような脳科学からの情報をもとにして、ひとりひとりの社会性を最大限に引き出すことを目的としています。
他のアンガーマネジメント講座ではやっていない貴重な内容です。是非みなさん、静岡教室へおいでください。