脳の反射に従うばかりでいいの?

私たちは感情をもって生きています。

その感情が「人間らしさ」を表すこともありますが、人間だけが感情をもっているわけではないので、感情があることをもって「人間はすばらしい」なんていうこともできません。

感情というのは脳の反射ですから、どうしてそんな感情に襲われたのかということについては、全てのプロセスを意識できないようです。

これは先日紹介した脳科学の本にも書かれていることですが、意識というのは「プロセスの細かいところ」は感知せず、無意識下で決められた「結論」だけを意識します。

たとえば、初対面でとても感じのいい人、Aさんに出会ったとします。自分は「Aさんっていい人だな」という判断を出しているわけです。その「自分」というのが即ち「意識」です。

そこで第三者のBさんから、「なぜAさんを “いい人” だと思ったんですか?」と質問されたとします。

その質問には是非答えたいと、自分は思います。だから質問してくれたBさんが納得してくれるよう、Aさんの良いところを考えて答えます。

ここで注意したいのは、次のような事実です。

(1)Aさんをいい人だと判断したプロセスは無意識だった。
(2)なぜそう判断したかは、無意識だったので正確にはわからない。
(3)納得してもらえる判断の理由は、後から理由を考えるしかない。

私たちが日ごろよく質問される「なぜそう思ったか?」という問いに対する答というのは、そのほとんどが「後づけの理由」だということです。

もちろん、後づけだから間違っているかというとそうでもありません。無意識下でもやもやと感じたことがあって、それは無意識だから言葉で説明するのは困難なんですが、それでも自分がそう判断した納得のいく理由というものを、そのもやもやの中から何とかして引っぱりだして言葉にしたいと、そう考えて理由を説明するんですから、そう間違ったことを言うとは限りません。

でもやはり、それは後づけの理由なんです。

以上の例は「いい人」という判断についてでしたが、これが怒りやイライラの原因となる「嫌な人」の場合であっても同じです。

「なぜ嫌な人だと思ったんですか?」

そんな問いを投げかけられて、本当に納得のいく理由を説明するのは簡単なことではありません。

そもそもの「嫌な人」という判断は、感情という脳の反射によるもので、しかもそれはプロセスのほとんどが不明な、無意識下で決まってしまったことです。意識=私だとすると、無意識=脳です。判断をしたのは「脳」であって、「私」ではないのです。

アンガーマネジメントステップアップ講座「思考編」では、本当の自分を「持ち主」、脳を「持ちもの」という図式で、自分と脳の関係を理解します。

そのような関係における無意識の判断というものは、持ち物である脳が勝手に下した判断(脳の反射)であって、持ち主である自分が下したものではないというふうに考えます。

「いい人」なら問題ありませんが、「嫌な人」という判断をしてしまっている自分は、実は脳という持ち物が勝手に下した判断に従っているだけなんだというのが事実です。その事実を重視します。

そこから、「嫌な人」が本当に「悪い人」なのかどうかということについて、改めて考え直せるようになる、というのが講座の目的のひとつです。

それは、脳の反射に従うことを全否定しようということではなく、脳の反射に従うことによって健全な人間関係がもてないという不幸をなくしていこうということです。

Akira Okitsu
1960年6月静岡市生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒。語学教育と教員指導の経験から、脳科学・心理学・言語学からなる認知科学の研究を始め、1994年言語学専門誌『言語』(大修館書店)にて、無意識下で「(見え)る/(見え)た」などの語形を決定する認識の根本原理の存在を言語学史上初めて指摘する。認知科学の知見を実用化して、アンガーマネジメント・メンタルトレーニングプログラムの開発、観光振興関連コンテンツの開発を行っている。アドマック株式会社代表。日本認知科学会会員。 【著書・著作】 ■『日本語入門 The Primer of Japanese』(1993年富士国際日本語学院・日本語ブックセンター創学社) ■『新しい日本語文法』(大修館書店『言語』1994年12月号) ■『夢色葉歌 ─ みんなが知りたかったパングラムの全て』(1998年新風舎出版賞受賞) ■『興津諦のワンポイントチャイニーズ』(2011年〜2012年SBS静岡放送ラジオ) ■『パーミストリー ─ 人を生かす意志の話』(2013年アドマック出版) ■『日本語の迷信、日本語の真実 ─ 本当の意味は主観にあった』(2013年アドマック出版) ■『余ハ此處ニ居ル ─ 家康公は久能にあり』(2019年静岡新聞社)

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