勝者がいる。だから必ず敗者がいる。

「競争社会を生き抜け!」

そんな言葉が珍しくも新しくもないという、そんな社会に私たちは生きています。

一方で、「ナンバーワンにならなくていい」という歌も流行しました。

「負けるな! がんばれ!」ということと、「勝たなくていい」ということと、まったく逆の意味になる二つのスローガンがあって、その両方が、何やらとても魅力的なんです。

それというのもやはり「勝って勝って勝ち続ける」ということへの疑問を私たち人類が共有しているからだと思われます。

中高生のころ、十代のうちは、まだ前頭前野が十分に成熟していませんから、敗者のつらさや悔しさは勝者にとってはどうでもいいことなのかもしれません。ただ勝てば良いという価値観に生きていて、負けて悔しれば勝てばいいと信じ込んでいることが案外多いのかもしれません。

それが二十代になってくると前頭前野が成熟してきて、自分が勝っても負ける者に対する情をかけることが誰にもできるようになるようです。それができないまま二十代、三十代と年を重ねていくようですと、人間性に問題ありということになってしまいます。

闘争心を最優先にして生きるということは、私たち人類の本質である社会性を二の次にしてしまうことになりますから、競争社会に弊害があるとすれば、人類の本質が脅かされる危険があるということになるでしょう。

勝者が敗者を一切顧みないということがないよう、例えばスポーツの世界なら、マナーやスポーツマンシップとして、敗者の健闘をたたえるということが求められますが、それが経済の世界になると、そうしたことは一切ありません。

あるのは競争と、それを律する法律だけです。

ダーウィンの唱えた種の保存の原則によれば、弱い遺伝子は淘汰され、強い遺伝子だけが残って種を繁栄させ、存続させるということになるんでしょうから、経済の世界ではそれが行われているだけのことだと考えれば、それはそれで健全なことなのかもしれませんが、私たち一人ひとりがその当事者として勝者になった場合には、負けて退いていく個人や企業の中からも、オンリーワンの優れた点を見出して、それを称え、それが忘れ去られることのないように活かして行くということも必要なはずです。

アンガーマネジメントステップアップ講座「思考編」の中でも、相手を理解することの効能について学んでいますが、勝ち負けが大事にされるこの社会で勝者として生きる時には、敗者を理解しようという姿勢を持つことが、勝つこと以上に大切になるのではないでしょうか。

Akira Okitsu
1960年6月静岡市生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒。語学教育と教員指導の経験から、脳科学・心理学・言語学からなる認知科学の研究を始め、1994年言語学専門誌『言語』(大修館書店)にて、無意識下で「(見え)る/(見え)た」などの語形を決定する認識の根本原理の存在を言語学史上初めて指摘する。認知科学の知見を実用化して、アンガーマネジメント・メンタルトレーニングプログラムの開発、観光振興関連コンテンツの開発を行っている。アドマック株式会社代表。日本認知科学会会員。 【著書・著作】 ■『日本語入門 The Primer of Japanese』(1993年富士国際日本語学院・日本語ブックセンター創学社) ■『新しい日本語文法』(大修館書店『言語』1994年12月号) ■『夢色葉歌 ─ みんなが知りたかったパングラムの全て』(1998年新風舎出版賞受賞) ■『興津諦のワンポイントチャイニーズ』(2011年〜2012年SBS静岡放送ラジオ) ■『パーミストリー ─ 人を生かす意志の話』(2013年アドマック出版) ■『日本語の迷信、日本語の真実 ─ 本当の意味は主観にあった』(2013年アドマック出版) ■『余ハ此處ニ居ル ─ 家康公は久能にあり』(2019年静岡新聞社)

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