フィルターのない澄んだ目で見ること

様々な「邪念」と呼ばれる思考や感情があると、私たちの目は、目に映るものそのままを見ることができません。

美しい星空も、まばゆく咲きほこる花も、子どもたちの笑い声も、もし私たちが自分だけの思考や感情に支配されていたならば、私たちはそこから “ささやかだけど尊い幸せ” をもらうことはできないんです。

自分だけの思考や感情・・・それがフィルターとなって、目に映る景色や姿、耳に入る声や音が、歪んだり、濁ったり、遮断されたりするからです。

赤ちゃんや小さな子供の目が、私たちに大事な何かを問いかけるかのように、澄んでいてきれいなのは、その目にフィルターがかかっていないからでしょう。

同じように澄んだ目で、私たちは赤ちゃんや小さな子どもたちの目を見ることができるでしょうか。

フィルターのかかってしまった目と、まったくかかっていない澄んだ目があるとして、どちらの目の方が「利口」かといえば、それはきっと、フィルターがかかっていた方が「利口」なんでしょうけれども、どちらの方が「マインドフルネス」かといえば、フィルターのかかっていない澄んだ目こそが、「マインドフルネス」です。

マインドフルネスとは、仏教の用語で「正念」のこと。「邪念」を取り去った心の状態のことで、それは「思いやりだけの心」と訳すこともできます。

赤ちゃんがその澄んだ目で、もしあなたの、悲しみで歪んだ顔を見たら、何も考えていなかったその澄んだ目も、悲しい目に変わるはずです。

赤ちゃんがその澄んだ目で、もしあなたの、愉快に笑った顔を見たら、何も考えていなかったその澄んだ目も、愉快な目に変わるはずです。

相手と同じ感情になること、相手の感情にしっかり同調すること、それが「思いやり」というものだと、そういえるかもしれません。

本当の「思いやり」というものは、自分だけのフィルターを完全に取り払ったところにだけ持つことができるものだと、そういえるかもしれないんです。

今回も、映画『フォレスト・ガンプ』(1994年)から、ちょっとだけ引用したいと思います。

妻となったジェニーが、もう長くはない病いの床で、かつてベトナム戦争で戦ったフォレストにこう尋ねます。

「ベトナムは怖かった?」

かつてのことを思い出しながらフォレストは話します。

「うん、ああ! わからないよ。ある時、ずっと降っていた雨が止んで、空に星を出してくれた。それは良かった。たとえば、夕日が入江の寝床に沈んで水の上に百万のキラキラを見せた時とか。たとえば山の湖がすごく澄んでいて、上と下に、二つの空が見えたり。それから、砂漠から朝日が昇ったとき、天国はどこからで地上がどこから始まってるのかわからなかった。それはすごくきれいだったよ」

それはベトナムのことだけではなくて、アメリカ大陸をひとり走り続けた日々のことも含まれていましたが、最愛のジェニーといっしょにいることがかなわず、それでもジェニーのことをいつも思いながら生きてきたフォレストの、心に残っていた、美しい景色のことでした。

「私もそこにいたかった」

フォレストといっしょに生きてくるべきだったと悔やむジェニーがそう言うと

「君もいたんだよ」

と、たった一言で、フォレストはジェニーの悔やむ心を晴らしてしまいます。

フィルターのない目は、人を救い、自分を救う、本当の思いやりになるんです。

 

*文中に引用した映画のセリフは、筆者が英語脚本から日本語に翻訳したものであり、日本語字幕や吹き替えのセリフとは異なります。

Akira Okitsu
【興津諦プロフィール】語学教育、異文化理解、グラフィックデザイン、翻訳、出版など、多様なコミュニケーション業務にプロとして携わる一方、1994年『言語』誌(大修館書店)において、時制や相にも表れる “言語の根本原理” の存在を言語学史上初めて指摘。その後も “無意識のエキスパート” として、クライアント・相談者に多面的なアドバイスをおこなっている。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒。アドマック株式会社代表取締役。アンガーマネジメント静岡研究所所長。日本認知科学会会員。1960年6月静岡市生まれ。 【著書・著作】 ■『日本語入門 〜The Primer of Japanese〜』(1993年) ■『新しい日本語文法』(大修館書店『言語』1994年12月号) ■『夢色葉歌 〜みんなが知りたかったパングラムの全て〜』(1998年 新風舎出版賞受賞) ■『パーミストリー 〜人を生かす意志の話〜』(2013年) ■『日本語の迷信、日本語の真実』(2013年) ■ 『余ハ此處ニ居ル 〜すんぷ特別版〜』(2015年)■ 『興津諦のワンポイントチャイニーズ』(2011〜2012年SBSラジオ)

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